80歳を超えても自分の歯で食べるために。シニア世代の予防歯科
「できれば、年齢を重ねても自分の歯で食べたい」。
これは、多くの方が自然に願うことではないでしょうか。
実際に、しっかりかんで食べられることは、食事そのものの楽しさだけでなく、人と話すこと、外に出かけること、毎日の元気にもつながっています。
一方で、シニア世代のお口の健康は、単に「歯が何本残っているか」だけでは語れません。
歯ぐきの状態、むし歯や歯周病の管理、入れ歯の使いやすさ、口の乾燥、かむ力や飲み込みやすさなど、いくつもの要素が重なって「口から食べる力」が支えられています。
だからこそ、80歳を超えても自分の歯で食べることを目指すなら、痛くなってから受診するのではなく、今のうちからお口全体を整えていくことが大切です。
湘南予防・歯科室では、予防歯科を、歯を治すためだけではなく、人生をおいしく過ごすための準備として考えています。
この記事でわかること
- 80歳を超えても自分の歯で食べるために大切な考え方
- 8020達成者が増えている一方で注意したいこと
- シニア世代で起こりやすいお口の変化と注意点
- オーラルフレイルと口腔機能低下症の基本
- 今から始めたいセルフケアとメインテナンスのポイント
「歯がある」だけではなく、「食べられる」ことが大切です
シニア世代のお口の健康を考えるとき、「何本歯が残っているか」はたしかに大切な目安です。
日本歯科医師会は、令和4年歯科疾患実態調査の結果として、8020達成者率が51.6%だったと公表しています。
つまり、日本では80歳で20本以上の歯を保つ方が「2人に1人以上」というところまで増えてきています。
これはとても前向きな変化です。
ただ、実際の生活では、歯の本数だけで食べやすさが決まるわけではありません。
歯ぐきが腫れていないか、かみ合わせが安定しているか、入れ歯が合っているか、唾液がしっかり出ているか、舌や唇がうまく動くか。
こうしたことも、食べる力に大きく関わります。
つまり、豊かな人生のために大切なのは、単に歯を残すことだけではなく、口からおいしく食べ、楽しく話せる状態を保つことです。
予防歯科は、その土台を整えるための考え方です。当院の予防への考え方は、予防歯科のページでもご紹介しています。
やさしく言うと:目指したいのは「歯があること」そのものではなく、「自分らしく食べて、話して、笑えること」です。お口のケアは、その毎日を守るためにあります。
シニア世代で起こりやすいお口の変化とは
歯の本数があっても、かみにくくなることがあります
年齢を重ねると、歯が残っていても「前よりかみにくい」「硬いものを避けるようになった」と感じることがあります。
これは、歯だけの問題ではなく、歯ぐきやかみ合わせ、あごの筋肉、舌の動きなど、いくつかの要素が少しずつ変化しているサインかもしれません。
日本老年歯科医学会では、加齢により口腔内の感覚、咀嚼、嚥下、唾液分泌などの機能が少しずつ低下してくる状態として、口腔機能低下症の考え方が示されています。
大切なのは、「年齢だから仕方ない」とあきらめるのではなく、早めに気づき、必要な対策を考えることです。
お口の乾燥が増えることがあります
シニア世代では、服用するお薬の影響や体調の変化などにより、口が乾きやすくなることがあります。
唾液には、お口の中を洗い流したり、粘膜や歯を守ったりする大切な役割があります。
そのため、乾燥が続くと、むし歯、入れ歯の違和感、話しにくさ、飲み込みにくさなどにつながることがあります。
お口の乾燥が気になる方は、当院ブログのドライマウスに関する記事や、予防歯科のページも参考にしてください。
入れ歯や被せ物も「入れて終わり」ではありません
入れ歯や被せ物は、毎日の食事を支える大切な道具です。
ただし、時間がたつと少しずつ合い方が変わったり、汚れがたまりやすくなったりします。
合わない入れ歯を我慢して使っていると、食べにくさだけでなく、粘膜の痛みや清掃不良につながることもあります。
シニア世代の予防では、「自分の歯」だけを見るのではなく、今使っている補綴物や入れ歯まで含めて、口全体を管理していく視点が大切です。
入れ歯の違和感や食べにくさがある方は、当院の入れ歯のページもご覧ください。
ポイント:シニア世代のお口の変化は、むし歯や歯周病だけではありません。乾燥、かむ力、飲み込みやすさ、入れ歯の状態なども含めて考えることが大切です。
見逃したくない「オーラルフレイル」という考え方
最近は、シニア世代のお口について考えるときに、オーラルフレイルという言葉がよく使われます。
これは、お口の機能が大きく悪くなる手前の、ちょっとした衰えが重なってきている状態を指します。
日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会による3学会合同ステートメントでも、オーラルフレイルに関する考え方が整理されています。
また、日本歯科医師会では、オーラルフレイルについて、噛む、飲み込む、話すための口腔機能が衰えることを指し、早期の重要な老化のサインと説明しています。
たとえば、次のような変化は、オーラルフレイルを考えるきっかけになります。
- 食べこぼしが増えた
- むせやすくなった
- 硬いものを避けるようになった
- 滑舌が落ちた気がする
- 口が乾きやすい
- 食事に時間がかかるようになった
- 人と話す機会が減った
こうした変化は、「年齢のせいかな」で流されがちです。
しかし、早い段階で気づいて対応することに意味があります。
オーラルフレイルは、全身のフレイルや低栄養、サルコペニアともつながる可能性があるとされており、口の小さな衰えを軽く見ないことが大切です。
大事なのは、深刻に考えすぎることではありません。
むしろ、「ちょっと気になる段階」で相談できることに価値があります。
お口の機能の低下は、早い段階なら整えやすいこともあるからです。
やさしく言うと:オーラルフレイルは、お口からの小さな黄色信号です。赤信号になる前に気づいて、整え直していくための考え方といえます。

80歳を超えても自分の歯で食べるために、今からできること
1. 毎日の清掃を「やさしく、確実に」続ける
年齢を重ねるほど、セルフケアはますます大切になります。
ただし、力を入れて強く磨けばよいわけではありません。
歯ぐきが下がった根元や、被せ物の境目、歯と歯の間など、汚れが残りやすい場所をやさしく丁寧に清掃することが大切です。
フロスや歯間ブラシ、必要に応じて舌の清掃なども、状態に応じて取り入れると役立ちます。
入れ歯を使っている方は、歯だけでなく入れ歯の清掃も毎日の大切なケアです。
CDCでは、歯周病は良好な口腔衛生、セルフケア、歯科医療者による定期的なケアによって予防・管理しやすいと説明されています。
2. むし歯や歯周病を「小さいうちに」見つける
シニア世代では、歯の根元のむし歯や、気づきにくい歯周病の進行が起こることがあります。
痛みが少ないまま進むこともあるため、「症状がないから大丈夫」とは限りません。
特に、以前治療した歯、被せ物のある歯、歯ぐきが下がってきた部分は、定期的に確認していくことが大切です。
悪くなってから大きく治すより、小さな変化の段階で対応した方が、歯を長く守りやすくなります。
歯ぐきの出血、歯石、口臭、歯のぐらつきなどが気になる方は、当院の歯周病治療のページも参考にしてください。
3. 入れ歯やかみ合わせを我慢しない
「少し合わないけれど使えているから」と、違和感のある入れ歯をそのままにしている方は少なくありません。
しかし、食べにくさや痛みを我慢していると、食べるものが偏ったり、口を動かす機会が減ったりすることがあります。
入れ歯やかみ合わせは、日々の食事を支える大事な土台です。
少しの違和感でも相談しやすい状態にしておくことが、結果的に長く食べる力を守ることにつながります。
4. 「食べる」「話す」を意識して口を使う
お口の機能は、使わないと少しずつ衰えやすくなります。
よくかんで食べること、人と話すこと、表情をつくることは、どれもお口にとって大切な日常の運動です。
もちろん無理は禁物ですが、食べやすいものだけに偏りすぎないこと、会話の機会を持つこと、お口の乾燥やむせが気になったら早めに相談することは、シニア世代の口腔機能を守るうえで大切です。
日本歯科医師会では、口や舌の動きをスムーズにする体操やパタカラ体操なども紹介されています。
5. 定期メインテナンスを「生活の一部」にする
シニア世代のメインテナンスは、単なるクリーニングではありません。
むし歯や歯周病の確認、根元の状態、清掃状況、入れ歯の適合、乾燥、口の機能の変化まで含めて、今の状態を見ていく時間です。
年齢を重ねるほど、お口の変化は一つではなくなっていきます。
だからこそ、困ったときだけではなく、普段から確認しておくことが安心につながります。
初めて受診される方や、久しぶりに歯科受診を考えている方は、当院の初めての方へのページもご覧ください。
予防歯科の視点:80歳を超えても自分の歯で食べるためには、「歯の本数」「歯ぐき」「入れ歯」「唾液」「かむ力」「飲み込む力」をまとめて見ていくことが大切です。

お口を守ることは、これからの人生を守ることでもあります
80歳を超えても自分の歯で食べることは、ただ歯を残すという話ではありません。
好きなものを味わうこと、家族や友人と楽しく食卓を囲むこと、自分らしく毎日を過ごすこと。
その土台として、お口の健康があります。
日本歯科医師会の8020運動でも、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」という願いが示されています。
年齢を重ねると、お口の悩みは少しずつ変わってきます。
だからこそ、「もう年だから仕方ない」とあきらめるのではなく、今の自分に合った守り方に切り替えていくことが大切です。
CDCでは、高齢者の歯の喪失について、65歳以上の成人のうち6人に1人がすべての歯を失っているというデータを示しています。
これは海外のデータではありますが、年齢を重ねても歯を守ることが、世界的にも重要なテーマであることを示しています。
湘南予防・歯科室では、シニア世代のお口の健康を、歯だけでなく「食べる」「話す」「暮らす」といった毎日の豊かさまで含めて考える予防歯科を大切にしています。
これから先も、自分の口でおいしく食べたい方、お口の衰えが少し気になってきた方は、どうぞお気軽にご相談ください。
今の状態をわかりやすく共有しながら、これから先の人生を支えるお口の管理を一緒に考えていきます。
当院の診療方針や予防管理型の考え方については、当院についてのページでもご紹介しています。
まとめ。80歳を超えても食べる力を守るには、今からの予防が大切です
80歳を超えても自分の歯で食べるためには、歯の本数だけでなく、歯ぐき、むし歯や歯周病、入れ歯、口の乾燥、かむ力、飲み込む力などを総合的に見ていくことが大切です。
日本では8020達成者が増えている一方で、高齢期では「かみにくい」「むせやすい」「話しにくい」といった口腔機能の小さな衰えにも注意が必要です。
オーラルフレイルは、そうした軽微な衰えの段階で気づき、改善につなげるための考え方です。
大切なのは、年齢のせいにしてあきらめることではありません。
今の状態を知り、今の自分に合ったケアを続けることです。
湘南予防・歯科室では、患者さん一人ひとりの生活や将来を見据えながら、お口からこれからの健康を支える歯科医療を大切にしています。
参考情報
この記事の執筆・監修
坪川 正樹|湘南予防・歯科室 院長
東京医科歯科大学歯学部卒業。予防歯科と歯周病管理を軸に、患者さんが納得して通える歯科医療を大切にしています。シニア世代のお口の健康を、歯の本数だけでなく、食べる・話す・飲み込むといった生活機能まで含めて支える診療を心がけています。
東京医科歯科大学 歯学博士。東京医科歯科大学歯周病学分野非常勤講師。日本歯周病学会認定医。日本レーザー歯学会専門医。公認心理師。
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